今日は、どのコーヒーにする?

毎日コーヒーを飲む人は多いと思う。僕も毎朝、豆を挽くところから一日が始まる。お湯を沸かして、豆を挽き、ゆっくり淹れる。もう何年も続いている朝のリズムだ。
もちろん、忙しい朝ならコンビニで買えばいいし、ボタンを押せばすぐに飲めるコーヒーもある。でも、豆を選び、挽いて、お湯を沸かし、自分で淹れる。そのひと手間をかけるだけで、朝の10分がちょっと幸せな時間になる。
僕は、いつも同じコーヒーを飲んでいるわけではない。朝の一杯、少し疲れている時、仕事に集中したい時、友人とゆっくり話す時、外へ持っていく時。その時の気分や場所によって、飲みたいコーヒーは変わる。
疲れていて、もうひと頑張りしたい時はエナジーコーヒー。友人が遊びに来たら、ちょっと特別なゲイシャを開ける。暑い日に外へ持っていくなら、前の日から作っておいた水出しコーヒーがいい。
ワインなら、料理や時間、一緒にいる人によって選ぶものを変えるのに、コーヒーはなぜか「いつもの一杯」になりがちだ。でも、コーヒーだってもっと自由に選んでいいと思う。
例えばゲイシャ。
ゲイシャというと「高級なコーヒー」というイメージが強いけれど、面白いのは値段よりも、その香りと味だと思う。ジャスミンやベルガモット、白桃、紅茶のような香り。同じコーヒーなのに、初めて飲むと「これ、本当にコーヒー?」と思うくらい違うものがある。
最近の研究では、ゲイシャの花や柑橘を感じさせる香りには、リナロールやゲラニオールなどの香気成分が関係していることも分かってきているらしい。さらに面白いのは、同じゲイシャでも、育った土地、標高、気候によって味が変わることだ。
パナマ産は、ジャスミンやベルガモット、紅茶のような透明感を感じるものがある。コロンビア産は、そこに桃やパッションフルーツ、ベリーのような果実感が重なるものもある。
ウォッシュドとナチュラルといった精製方法でも違うし、熱い時と少し冷めてからでも香りが変わってくる。
そういうことを少し知ってから飲むと、同じ一杯が急に面白くなる。
2025年1月にコロンビアのInmaculada農園を訪れた時、農園を歩き、栽培や精製の現場を見て、そこで働く人たちと話をし、最後に何種類ものコーヒーをカッピングした。農園を受け継ぐ若い世代が、栽培から精製までテクノロジーを取り入れ、同じ品種でもどうすれば違う個性を引き出せるのかを研究していた。
帰国して東京で改めてカッピングをした。同じゲイシャでも並べて飲むと全然違うし、冷めてくると急に別の香りが出てくることもある。知れば知るほど、「次は何が違うんだろう」と興味が湧いてくる。
僕は、こういうことが生活を豊かにするのだと思う。
コーヒーでも、ワインでも、パンでも、写真でもいい。一つのことを少しずつ知って、違いが分かるようになってくると、それまで何となく見ていたものの中に、たくさんの発見があることに気づく。
昨日まで同じだと思っていたものに、違いが見えてくる。
毎日同じように繰り返している生活でも、自分が詳しくなれば、見えるものは増えていく。退屈だった日常が、少しずつキラキラしてくる。
だから、たまにはいつもと違う豆を買ってみる。少し早く起きて、自分で挽いてみる。友人が来たら、ちょっと特別なゲイシャを開けてみる。
そんな小さなひと手間が、毎日の中にちょっと幸せな時間を作ってくれる。
今日は、どのコーヒーにしよう。
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