BLUE SIX OPEN Vol.2
BLUE SIX OPEN期間中、日本男子テニス界を長く牽引してきた西岡良仁選手が、トップジュニアを集めた練習会に来てくれた。 ジュニアたちに大切な考え方を伝え、オンコートでは一人ひとりにアドバイスを送りながら行われた約2時間半。ジュニア選手たちにとって、とても貴重な時間になったと思う。
僕が初めて西岡選手に会ったのは、彼が14歳の頃だった。 日本を離れ、フロリダのIMGアカデミーでプロになるためのトレーニングを積んでいた時期だ。 毎日6〜7時間の練習をこなし、試合と遠征を繰り返す生活。日本から選抜されIMGアカデミーへ送り込まれたジュニア選手たちは、年齢ごとに高い基準が設けられ、それを毎年クリアできなければ帰国しなければならない。 18歳、最後のハードルは、グランドスラム・ジュニアでベスト8以上だった。
僕が訪れた時、西岡選手は腰を疲労骨折していた。 それでもコルセットを巻きながら、3時間走り続けていた姿を今でもはっきり覚えている。 日本を離れ、孤独と戦い、プレッシャーに耐え、毎年設定されたハードルを越え続ける。 プロとして生きていくとは、それほど厳しい世界なのだ。 あの少年が世界30位の壁を破り、日本男子テニスを代表する選手として長くツアーを戦い続けている。 そう考えると、とても感慨深い。
今回は練習会の前に約1時間、西岡選手とじっくり話をする時間をいただいた。 まず聞いてみたのは、 「プロになって勝つ選手とは、どんな選手ですか」 という質問だった。 ジュニア時代に多くのタイトルを獲得しても、プロになってランキングを上げられない選手は数え切れないほどいる。 その理由について、西岡選手は迷わずこう答えた。 「本当に苦しい練習を毎日続ける。そこまでの覚悟がないからです」 個人競技では、どこで練習するか、誰に教わるか、どんなトレーニングをするのか、どの大会へ出場するのかまで、すべて自分で決める。 自ら厳しい環境を選び、その挑戦を毎日、何年も続けられるか。 さらに資金を集め、スポンサーとの関係を築き、結果を出し続けなければ活動そのものが続かない。 技術だけでは勝ち続けられない世界なのだ。 BLUE SIX OPENも今年で3年目を迎えた。 試合が終わっても会場に残り、毎日遅くまでボールを打ち続ける選手は2〜3人ほどしかいない。 大会期間を将来のための強化期間と考え、本気で取り組んでいる選手は決して多くないのが現実だ。
次に聞いた。 「上手い選手と、強い選手の違いは何ですか」 西岡選手はこう話してくれた。 「今はジュニアもプロも、みんなボールを打つのは上手い。YouTubeを開けば情報はいくらでもある。 でも、強い選手は少ない。 どこを目指し、どんな活動をし、どんな課題を持って毎日取り組んでいるか。その差だと思います」
印象的だったのは、日本の育成について話してくれたことだった。 「日本の指導者は、選手を抱えて離さない傾向が強いと思います」 長年海外を転戦する中で、特に印象に残っているのがイタリアの育成システムだという。 イタリアでは、強くなった選手の育成プランや指導法、トレーニング方法などをコーチ同士が共有し、お互いにブラッシュアップしていく。
大会期間中、他の海外コーチからも同じ話を聞いた。 イタリアでは、ジュニアからプロへのトランジションをスムーズに進めるため、育成を専門とするコーチたちがジュニア選手に帯同し、プロの下部大会を回っているという。 そこでは、「どこのアカデミーの選手か」「誰の教え子か」という考え方は薄く、才能のある選手には新しい環境、新しいコーチ、新しい経験が次々と与えられる。 国全体で選手を育てる。 そのために情報を共有する。 そういう考え方が根付いているのだという。 「自分たちだけで育てる」という発想ではなく、「どうすれば世界で勝てる選手を増やせるか」という視点で動いている。 それがイタリアであり、フランスであり、スペインであり、アメリカなのだ。
西岡選手はさらにこう話してくれた。 「ジュニア後半からトップ200へ入るためには、様々なサーフェスでプレーし、世界中の異なるタイプの選手と練習し、試合経験を積むことが欠かせない。どんどん世界へ出て、多様な経験を積んでほしい」 現在、男子世界ランキング100位以内は、イタリア13人、アメリカ15人、フランス13人、日本は1人。 この差は、育成文化の違いにも表れているのかもしれない。
最後に、これからの日本テニスについて聞いてみた。 「僕も現役後半になってきて、次の時代のことを考えるようになりました。自分は世界30位まで経験してきたので、その過程を知っている人は多くありません。その経験を、ジュニアやプロ選手だけでなく、コーチや保護者にも伝えていきたいと思っています」 世界30位まで登った選手だからこそ伝えられることがある。 技術だけではない。 覚悟、環境、そして世界で戦うための考え方。 今回の2時間半は、ジュニアたちにとって、とても大きな価値のある時間だったのではないかと思う。