アマゾンフォレストへ #2
ジャングルでのボート生活は5日目に入った。 季節は雨季の後半。 川の水位は一番高く、湿度もかなり高い。 昼は太陽が強く照りつけ、夕方になると空気が一変する。 突然、土砂降りの雨が落ちてきて、雷が鳴る。 まさにレインフォレストが目の前で暴れている。
ジャングルを歩いていると、ガイドが 「ちょっと見てみろ」 と木の穴を指さした。 棒で軽く突くと、中からTucandeira(トゥカンデイラ/和名:サシハリアリ)という大きなアリが次々と出てくる。 このアリは猛毒を持っていて、噛まれると24時間、銃で撃たれたような痛みが続くらしい。 しかも、この辺りの部族では、男の子が12歳になる時に、手袋の中にTucandeiraを25匹ずつ入れ、それを10分間はめたまま踊るという。 それが大人になるための儀式で、通過すると男の仲間入りだというのだから、こちらの感覚ではなかなか追いつかない。
喉が渇いたら、この木を切ると水が出る。 このカエルは毒がないから触っても大丈夫。 この植物は刺してくるから近づくな。 ジャングルの中では、ガイドに見えている鳥が、僕にはまったく見えない。 すぐ目の前にいる蛇が木と同じ色をしていて、どこにいるのか分からない。 イグアナが木に登るのは知っていたけれど、川に飛び込むのは初めて見た。 上半身が茶色で下半身が緑のトカゲも、言われてもすぐには見つけられない。
知らないことばかりだ。 東京にいると、なんでも知ったような気になる。 調べればなんでも分かる気がしている。 でも、ここでは何も通用しない。 聞くこと、見ること、驚くこと、その全部が初めてだ。 これが、一次情報の強さなのだと思う。
朝起きると、目の前でイルカが泳いでいる。 時々、水面に顔を出して、まるで「遊ぼうよ」と誘ってくるように見える。 そんな朝、ガイドが突然 「King Vultureがいる! 早くカメラを持って来い!」 と叫んだ。
見るのは1年ぶりだと言って、かなり興奮している。 King Vulture(キングバルチャー/和名:トキイロコンドル)は、体は白からクリーム色、翼は黒、顔はオレンジ、黄色、赤、紫のような派手な色をしていて、翼を広げると2m近くになる。 一度見たら忘れられない鳥だ。
しかも、この鳥がいるのは森が健康な証拠だと言われている。 King Vultureは自分で獲物を狩る鳥ではなく、主に森の中で死んだ大型動物を食べる。 つまり、この鳥が生きていくには、サル、ナマケモノ、シカ、イノシシ、鳥のような動物たちがたくさんいて、その動物たちを支える豊かな森が必要になる。 しかも数が少ない。 今回は2羽一緒にいるところが撮れた。 普段は1羽でしか現れないらしく、かなりラッキーだった。
実は、こちらに来て3日目あたりから体調を崩した。 熱が出て、体の節々が痛い。 最初は原因が分からなかったけれど、ボートの地下で寝ていると寝汗がかなり出て、それで身体が冷えてしまったのだと思う。 昨日は夜中に3回着替えた。 そのおかげか、ようやく体調は戻ってきた。 でも、その代わりに替えのTシャツがなくなった。
湿度が高いから、洗ってもなかなか乾かない。 昼の天気なら乾くのに、少し油断して取り込むのを忘れると、一瞬で豪雨になって、またびしょ濡れになる。 装備の大事さが、身に染みる。 TシャツやロンTは、速乾素材かメリノウール。 アウターはGORE-TEXほど重装備じゃなくてもよくて、軽くて通気性があり、多少の撥水性がある方が使いやすい。 次回のために、装備はもう少しアップデートしようと思う。
今日は、キャプテンの下で船の世話をしているAllenから、アマゾンの話をたくさん聞かせてもらった。 ブラジルからコロンビア国境近くまで船で行き、フルーツやガソリンを売っていたこと。 警察に追い出され、戻ろうとしたらエンジントラブルで動かなくなり、3日かけてオール一本でブラジルまで戻ってきたこと。 その間、何度もスコールに降られ、ボートが沈みそうになったこと。 でも、その代わりに腕が太くなったんだと笑いながら見せてくれた。 それ以外にも、ピラニアに噛まれて小指が短くなった話や、アナコンダがどれだけ強敵かも教えてくれた。 彼は、どんなものでも作れる技を持っていて、ジャングルの中で何日でも生きていけるという。
今回の船にはコックさんがいて、毎日ちゃんとご飯を作ってくれる。 これが本当にありがたい。 キャンプとはまったく違う。 オムレツやスープライスのような温かい食事をしっかり食べられるから、毎日ちゃんと動ける。 ジャングルでは、食べられること自体が大きい。
アマゾンの人たちの主食は、マンジョッカ(キャッサバ)という木の根だ。 ただし、そのままでは毒がある。 それをすりおろし、何度も水分を抜き、乾燥させて炒ることで、ファリーニャという食べ物になる。 魚にかけて食べることが多く、見た目は穀物のふりかけのようだが、アマゾンではご飯のような存在らしい。 そのままでは危険な植物を、毒抜きの技術を発明して主食にしてしまう。 ジャングルで生きるために生まれ、何千年も受け継がれてきた知恵の食べ物だ。 面白い。
アマゾンでは、動物や植物だけではなく、 人がどうやって生き延びてきたのか、という知恵そのものが、すべて一次情報としてそのまま目の前に現れる。 その土地の食べ物を知ることは、 その土地の生き方を知ることなのだと思う。 次号に続く。