2026年10月、国立科学博物館で写真展「Tateyuki Adachi Photo Exhibition LION NIGHT TOKYO EDITION」を開催した。7日間の会期中、延べ1万8千人以上の方々が足を運んでくれた。
タンザニアで夜のライオンたちを追いかけ、撮影を続けていた頃には、こんなにも多くの人に自分の作品を見てもらえる日が来るとは想像もしていなかった。
初めて僕の写真を見る方も多く、子どもから大人まで、さまざまな年代の方々で賑わった会場。写真展を通して、これまで知らなかった人たちと出会い、同じ時間を共有できたことが、何より嬉しかった。
1. 夜のライオンを、夜の空気の中で
「LION NIGHT」は、誰もが知っているライオンの、あまり知られていない夜の姿を撮りたいと思ったところから始まった。
ライオンは夜行性で、本格的に動き始めるのは陽が沈んでから。子どもたちは戯れ合い、疲れれば身体を重ねるようにして眠る。その周りでは母親が敵に注意を払いながら、家族を見守っている。
撮影では日中にライオンを見つけ、陽が沈むのを待つ。暗闇の中で一度見失えば、その日の撮影はそこで終わってしまう。赤外線カメラを搭載したドローンで探したり、3台の撮影車で痕跡を追いかけたりしながら、何度も夜を過ごした。
そんな撮影を続けるうちに、少しずつライオンとの波長が合い始める瞬間がある。エンジンを止めれば、草を踏みながら歩く足音まで聞こえてくる。ライオンを見ているというより、彼らの生活の中に少しだけ入れてもらっているような時間だった。
これまで青山、フランスのパリやノルマンディーで「LION NIGHT」を展示してきたけれど、ずっと実現できていなかったことがある。
それは、夜のライオンを、夜の空気の中で見てもらうこと。
国立科学博物館では、安全を確保しながら会場を暗くし、照明を細かく調整することで、暗闇からライオンたちだけが浮かび上がる空間を作った。
会場に入ると、暗闇の中にライオンがいる。
ようやく「LION NIGHT」というタイトルそのものを、空間として見せることができた。
2. 写真を通して生まれた会話
会場では、作品を見てくれた方々と直接話をする機会も多くあった。
「夜のライオンの世界を体験できた」「ライオンが好きなので初日に飛んできたけれど、こんな表情は見たことがなかった」
そんな嬉しい言葉をいただいたほか、撮影方法や期間、実際に見てきたライオンたちの様子について、興味を持って質問してくれる方々もいた。
初日の閉館後には、メールマガジンの読者20名を招待し、特別なプライベートツアーを開催。
一般のお客様がいなくなった静かな博物館で、暗闇に浮かぶライオンの写真を一枚ずつ見ながら、撮影した時の状況やライオンの家族のこと、写真には写っていない前後の出来事まで話していった。
話している僕自身も、タンザニアでのロケのことを次々と思い出した。あの夜に何が起きていたのかを直接伝えられる、特別な時間になったと思う。
写真展の開催前、国立科学博物館なら、普段は写真展に来ない人にも作品を見てもらえるのではないかと考えていた。
アートとして写真を見る人、動物が好きな人、科学や自然に興味がある人、そして子どもたち。同じ写真でも、興味を持つ入り口はそれぞれ違う。
写真を通して人と出会うことの面白さを、改めて感じた。
3. 写真展を終えて、その先へ
写真は、目の前にあるものをきれいに撮るだけではなく、これまで見えていなかったものを見せてくれる。
僕らは、知っているものは見えている。でも、知らないものは、目の前にあっても見えていないことがある。知らなかった世界に触れることで、ものの見方や価値観が変わっていく。それもアートの役割の一つだと思う。
これまで7年間、毎年約3か月は海外で撮影を続けてきた。良い作品を作るのも大変だけれど、それを多くの人に届けるのも同じくらい大変だ。
今回の国立科学博物館での写真展を終えて、写真家として一つ上のステージに進めたように感じている。
最終日の帰り道、スタッフと話していたのは、すでに次の企画のことだった。次はどこへ撮影に行くのか、どの街で写真展を開くのか、映画の上映会はどこでやるのか。
夜のライオンたちが、また新しい出会いをつくってくれることを楽しみにしている。