ノブレス・オブリージュ
10年くらい前、僕が経営するカリフォルニアのお店で働く日本人スタッフを探していた時の話だ。「アメリカで働いてみたい」と、一人の日本人女性が僕のところへやってきた。
それから彼女は、僕らのお店で働きながら、ビザが取れるのを待っていた。その後、渡米し初めての海外生活をしながら、お店の立ち上げを一緒にやることになった。
英語もあまり上手くなく、慣れない土地で苦労することも多かったと思う。それでも、いつも前向きで、どうすればお店を軌道に乗せられるのか、試行錯誤しながら何とか頑張っていた。
その彼女から、先日嬉しいLINEが届いた。
結婚を機にオランダへ移住したのだが、今度は自分のお店を開くという。
僕らと一緒に仕事をした経験から良い影響を受けたようで、自分でもやってみようと決心したらしい。
いやぁ、すごいなぁ。
本当にすごいなぁ。
日本を出て、言葉も十分に話せないアメリカでお店を立ち上げ、次はオランダ。しかも、今度は自分のお金を使って、自分のお店を作るというのだから驚いた。
彼女からのLINEを読んでいたら、なぜかミュージカル『Les Misérables』の「民衆の歌」が頭の中に流れてきた。そして、「ノブレス・オブリージュ」という言葉を思い出した。
本来は、社会的に高い地位にある人には、それにふさわしい責任や義務がある、という意味のフランス語だ。
でも、今回僕が感じたのは、少し違う。
誰かに言われたわけでもなく、自分で決めて、知らない土地へ行き、自分のお金を使って新しいことを始める。もちろん、失敗するかもしれない。思っていたようにお客様が来ないかもしれないし、言葉や文化の違いで苦労することもあるだろう。
それでも、やってみようと思った。
僕は、そういう勇気のある人が好きだ。
アメリカで一緒に仕事をしていた頃は、彼女が10年後にオランダで自分のお店を始めるなんて、想像もしていなかった。途中で音を上げて日本に帰っちゃうかな、と思っていた。
しかし、彼女は僕の予想を裏切り、どんどんと育っていった。あの時の経験が彼女の自信となり、次の挑戦につながったのだとしたら、こんなに嬉しいことはない。
彼女なら、きっと成功させるだろう。
オランダに行く理由が、また一つ増えた。
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