イタリアのカシミア村
イタリア中部、ウンブリア州にある小さな村、ソロメオ。人口数百人ほどの村に、今では世界中から多くの人が訪れる。
ソロメオは、カシミアブランド「ブルネロ・クチネリ」の創業者、ブルネロ・クチネリが40年以上かけて再生してきた中世から続く村だ。クチネリは1980年代にこの村へ移り、古い城を会社の本社と工場として使い始めた。
そこから会社は成長し、今では世界を代表するラグジュアリーブランドの一つになった。
普通なら、ここから工場を拡張し、ショップを増やし、ホテルやレストランを作って、ブランドの世界観を体験する場所へと広げていきそうなものだ。
でも、ソロメオは少し違う。
会社が成長すると、仕事の場を村から谷へ移し、歴史的な村には別の役割を与えていった。
劇場を作り、図書館を作り、職人を育てる学校を作る。農地を再生してオリーブやワイン用のぶどうを育て、公園や散策路も整えていった。
カシミアで成功したからといって、カシミアを横に広げていったわけではない。
文化、教育、建築、食、農業、自然。
それぞれ全く違うものを、一つの村の中に重ねていった。
僕は、この考え方がとても面白いと思う。
服を見たい人、建築を見たい人、劇場へ行く人、食やワインに興味がある人、職人の仕事を見たい人、ただ村を歩きたい人。
ソロメオには、それぞれ違う「行く理由」があるのだ。
会社が成長したら、城をさらに会社のために使うのではなく、仕事を谷へ移し、歴史的な場所を教育や文化に使う。工業施設があった土地を、再び農地や自然へ戻した場所もある。
「ここに何を建てようか」ではなく、「この場所は、何のために使うのが一番いいのか」
ソロメオを見ていると、そんな順番で考えているように感じる。
カシミアという強い事業を土台にしながら、そこに全く違う「行く理由」を少しずつ加えていく。
40年以上かけて一つの村を育ててきたソロメオを見ていると、場所というのは、建物を作ることで完成するのではなく、そこへ行きたくなる理由を増やしながら、時間をかけて育てていくものなのだと思う。
