2025年6月、フランス・パリのルーブル美術館内にある装飾美術館で「LION NIGHT 〜満月のREAL〜」の写真展を開催した。
タンザニアの満月の夜、ライオンの群れに静かに同行しながら撮影したシリーズだ。彼らの生活を邪魔しないよう注意を払い、撮りたかったのは「よくあるライオンの写真」ではなく、そこにある「ありのままの素顔」。
そんな真夜中のライオンたちを、世界最高峰の美術館ルーブルでどう見せるか。
現地での準備は、新しい挑戦の連続だった。
1. 数センチで変わる、作品の表情
開催の約1か月前、最終調整のためにパリへ向かった。
現地では沢山のスタッフが集まり、作品パネルの位置や照明を一つずつ確認した。写真をわずか数センチ動かすだけで、ライオンの顔に光が入り、作品の見え方も大きく変わる。
暗闇から夜のライオンたちが浮かび上がる位置を探しながら、最後まで調整を続けた。
ところが、ルーブルでは考えていたアイデアが簡単には通らない。
展示室を暗くし、来場者がペンライトでライオンを探す。真夜中のサファリで体験した感覚を再現しようと考えたものの、約10m上にある窓は重要文化財。遮光カーテンを設置できず、断念した。
撮影の裏側を見せるための特製アルミ製アルバムやポスターは、ルーブルの品格に合わない。シアタールームの床にチモシー(干し草)を敷き詰めるサファリ体験も、安全面から見送ることになった。
提案して、難しければ別の方法を考える。その繰り返しで、少しずつ展示を組み立てていった。
今回の展示は平日3日間、全席招待制。
フランスのアート、出版、エンターテインメントなど、それぞれの世界で活躍する人たちが招待される。"Lion Night" がどう評価されるのかと言う、試される場であった。
写真界の重鎮からは、
「あなたはどう見せたいのか。何を伝えたいのか。」何度も聞かれた。
作品はすでにタンザニアで撮り終えている。満月の夜に出会ったライオンたちは、もう撮り直せない。
だからこそ、ルーブルでは「どう見せるか」を最後まで追い込んだ。
2. 「退屈だったら、とっくに帰ってるよ」
写真展は、フランスのアート界への扉を開ける最初のテストだ。
会場には有名写真家や大手ギャラリーのオーナー、投資家、出版社の社長らが次々と訪れ、作品の前で足を止めては質問を投げかけてくる。
ある人に、
「いかがでしたか?」
と聞いてみた。
返ってきたのは、
「退屈だったら、とっくに帰ってるよ」
という一言。
冗談なのか本気なのか、よく分からなくて少々困った。それでも会場では、作品を前にさまざまな質問が飛び交った。
シアタールームでは、15分のドキュメンタリー『LION NIGHT 〜満月のREAL〜』も上映。同じ年、カンヌ映画祭のショートフィルム部門にも挑戦した作品だ。
真夜中のセレンゲティでライオンを追う撮影風景と、そこで生きる野生動物たちの姿。写真とは違う方法でも、「LION NIGHT」の世界を見てもらった。
そして最終日の夜。
ルイ13世が育ったという部屋に、パリのアート関係者や感度の高い人々、約50人が集まりパーティを開催。
展示をきっかけに、この先のギャラリーや新しいプロジェクトについて複数の打診もあった。
どうやら、最初のテストはクリアしたのだと思う。
たぶん。
3. 知っているはずのものに、もう一度出会う
その最終日のパーティで、僕は「なぜライオンを撮っているのか」「写真で何を伝えたいのか」を話した。
もともと、まだ見たことのないものを撮りたいと思っていた。
でも、今回の展示とたくさんの対話を通して気づいたのは、すでにそこにあるのに、まだ気づかれていないものに光を当てたいということだった。
ライオンは、誰もが知っている。
でも、本来彼らが活発に動く夜の姿を見たことがある人は、ほとんどいない。
星の下で眠る兄妹、子ども同士のプロレスごっこ、重なり合って眠る姿、小さなあくび。
どれも、知っているはずの存在の、知られていない一面だ。
パリでの経験を通して、僕はようやく、自分がなぜ写真を撮るのか、世界とどう繋がるのかを理解しはじめたように思う。
この先がどうなるかは、まだわからないが、
焦らず、慌てず、自分のペースで歩いて行こう。